東京高等裁判所 昭和52年(ネ)3195号 判決 1978年10月31日
控訴人 甲野太郎
右訴訟代理人弁護士 池留三
被控訴人 乙山花子
右訴訟代理人弁護士 能登文雄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金三〇〇万円及びこれに対する昭和五一年四月四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに金員の支払につき仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の関係は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
理由
控訴人が本訴の請求原因として主張するところは、控訴人と被控訴人とは、いわゆる妾関係にあったものであるが、昭和四一年六月二七日、控訴人は被控訴人に対し元金を銀行預金としてその利息を生活費の一部に充て妾関係を解消するときは直ちに元金を返還するとの約定で三〇〇万円を預託したものであるところ、昭和五一年三月七日、二人は妾関係解消の合意をし、被控訴人は控訴人に対し同月末日までに右金員を返還する旨約したのでこれが返還を求める、というにある。
ところで、妾関係は、我が国の家族法の基本である一夫一婦の制度にもとり、人倫に反するものであるから、妾関係の維持継続を目的とする行為は公序良俗に反するものとして無効となり、妾関係の維持継続をはかるためになされた給付は民法七〇八条にいう「不法の原因のための給付」として返還を請求することができないものというべきである。そして、妾関係を解消するときは元金を返還するとの約款の付された金員の給付は、たとえそれが控訴人主張のごとく預託であるとしても、これを給付する者としては妾関係の維持を望んでいるものと目され、これが給付を受ける者に対しては間接的に妾関係の継続を強いる効果を有するものであるから、右は妾関係の維持継続をはかるための給付であるというべきである。したがって、控訴人の本訴請求は、右金員につき返還の合意が成立したかどうかにかかわりなく(かかる合意が成立したと認めるに足る証拠もないが)、主張自体失当として棄却すべきである。
よって、控訴人の本訴請求を排斥した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 柳沢千昭 浅香恒久)